遺体搬送は、主に病院で亡くなられる方が大部分を占めています。葬儀社の営業体型は24時間365日フル稼働です。
遺体搬送の業務も、昔から葬儀社で所有する寝台型霊柩車を使用する場合が多かった。しかし近年では遺体搬送を専門とする企業が葬儀社に成り代わり病院から自宅までを代行して遺体搬送することが目立ってきました。
だが、遺体搬送の代行業者は葬儀社とは違い、葬儀の専門知識をもっている運転手はとても少ないようです。それにより遺体搬送車の中で遺族からの質問に即答出来ず、クレームの対象にすらなりかねません。
そこで病院から指定されたご自宅までの間、遺体搬送車の運転手と遺族の間でどんな魔の車内空間になっているのでしょうか。一般の方にはほとんどが経験しないことだと思います。
通常公にはしない遺体搬送の裏話、こんな時はどうする?また知って得することなどを交えながらまとめてみました。
遺体搬送車輌は、運転テクニックの苦手な人には無理
遺体搬送車輌は、その葬儀業務から4種類に分けられます。
- お迎えと送り後の空車で運転手1人だけの場合
- お迎えと送り後の空車で運転手とサブの2人の場合
- 故人(ご遺体)だけの2人の場合
- 故人とその家族(付添人)の3人の場合
遺体搬送車は一般的に運転手は1名で搬送することが多い。稀にサブの2人で遺体搬送作業をする場合もあるが、ここでは運転手1名での紹介をいたします。
通常病院から道案内を兼ねて④の1名同乗して頂くが普通である。しかし、③の場合においては、何らかの事情により遺体のみを載せて自宅まで搬送することもある。家族全員が車で病院に来院している時は、自家用車を持ち帰れらないといけない場合である。
この場合、遺体搬送の運転手は住所をお聞きし直接自宅に向かうか、又は家族の乗用車の後を付いて行くかのどちらかだが、後者の方が望ましい。だが、どちらにせよ病院からご遺体を車載した時点から魔の空間は始まるのである。
道路の凹凸や曲がり角で、スピードを減速していないと、大切なご遺体は頭部を中心に左右にぶれたりする。たとえ胴体部・脚部の2か所をベルトで締めていても頭部はふらつくのが現状だ。
そのふらつきを抑えるためにも、ルームミラーで後方部を監視しながらの運転は結構神経を使う。ちょっとしたGでも遺体とシーツで寄れる音がする。人間を運ぶタクシーの運転とは桁外れである。まず遺体搬送時この運転操作が出来ていないのは葬儀社に入社して間もない新人が多い。
また、遺体搬送は自宅近くになると狭い道にもなるため運転の苦手な人は要注意。それは、遺体搬送は昼間ばかりではない。夜間街灯のない足元真っ暗な所ばかりで、住宅地であれば道路脇は側溝のふたが無い路地もあったりする。
玄関先や庭先まで車両をバックで入れる為、大きな石もゴロゴロしているかもしれない。それを確認しながら搬送するのである。気の利いた遺族はたまに誘導してくれるがその場合は心強い。
遺体搬送車輌の留め方にも決まりがある。道幅が狭い出入り口などは、同乗してきた遺族を先に下ろす。その後遺体搬送車の左側をピッタリまでに寄せ、運転席側を人間一人歩けるくらいの間隔を空けて留めるのだ。
我々も車両幅ぐらいしかない道路や、車輌でいっぱいの所を無理にでも入っていかなければならない場合も多い。こういった意味からも運転テクニックに自信のない人には苦手な分野かも知れない。
またご遺体が未だ載っている場合、誘導が必要になった場合は遠慮なく遺族に応援頂くこともある。それによって今後の打合せでコミュニケーションが取れる場合があるからだ。
遺体搬送の車中は、病院から沈黙の時間?
病院から自宅まで遺体搬送した場合、ほとんどがご遺体と付添人役の遺族が1名同乗します。大切な家族が亡くなったばかりの遺族は哀しみを隠し切れない場合が多い。
そんな中、あなたは遺体搬送車の車中はどんな雰囲気だか想像つきますか。見知らずのご遺体と家族。とても不気味で異様な雰囲気に包まれてしまうのが普通です。
遺体搬送車の車中構造は、前席は運転席と助手席です。後部席は改造され、左右どちらかの後部座席がご遺体を載せる場所、その対面側がもう一席普通に乗車出来るようになっています。
大切な方が亡くなった遺体の傍に遺族が寄り添う形で後部席に乗車するのが一般的。そこで突然の急死で病院からずっとシクシクと泣き続けている人、老衰だからと言って助手席に勝手に乗り込む人と乗車方法は様々です。
見知らぬ他人は接し方や感じ方も違うが、遺族が助手席に乗られては、落ち着かなくて気詰まりするという運転手もいます。基本的に運転手から声を掛けない場合、遺族はただ静かに黙って乗っている人が多いようです。
この雰囲気は楽といえば楽かもしれません。安全運転に徹していればいいわけですから。しかし、葬儀知識のある葬儀社の運転手は、基本遺族に対しひたすら自分の気配を抑えることになります。
稀に、助手席も空いているということで、遺族が2人乗車する場合もあります。遺族同士で会話を弾ませる人もいれば、故人の病院生活の話や雑談で盛り上がりを見せる場合もある。そんな話を運転手である私などは、故人の病歴や死因、家族構成までも知り得ることができてしまう超有意義な時間でもありました。
遺体搬送の車中は、葬儀打合せの予行ができてしまう
では、遺族がずっと泣きじゃくっていた場合はどうする?その場合は自宅が近くなってきた時だけ確認の言葉をかけるだけが精一杯です。余計な話はできません。
また、ただ沈黙を続けている場合においては、こちらからアクションを起します。
- 死亡診断書はすぐ発行してもらえたのか。(もし持っているならばその場で受け取ってしまいます。それでないと診断書を持ったまま買い物に出掛けられたら届け出に時間が掛かってしまうことが理由の一つです)
- 搬送先の自宅に誰か留守番はいるのか。(布団の準備を先行して貰える場合に有利)
- 搬入口は広いか狭いのか。
- 以降は、故人の闘病生活が長かったのか、死因は何だったのか差しさわりない程度にお聞きします。
しかし、それ以外で一番多い話はやっぱり葬儀の段取り、葬儀の流れについて質問される場合が多いです。誰もが、葬儀の段取りをつけるのは不慣れです。遺族は思いついたことだけを遠慮なく聞いてきます。
気を遣ってくれているのか、はたまた遺族自身の哀しみを紛らわせるかのごとく喋りかけてきます。そんな時はそれに素直に応えてあげるのがベストのような気もします。
全て応え終わったなら、故人遺影がすぐ準備できるかどうかを私の方から聞き出します。そうすることでその質問された人は、こちらから仕事の分担を任せられるわけです。
それ以外の準備物は、自宅に戻ってからそれぞれにかみ砕いて説明。そうする事で、遺族一人一人が故人の葬儀に対し協力して頂く役割を、その時点から始められるわけです。
自宅到着時間が、昼間か夜間なのか朝方なのかによっても進め方は変わります。しかし限られた時間の中で聞き出せるものは、先行で伝えておかないと段取りが悪くなり、本打合せにも影響してくるわけです。
「口は災いのもと」といわれるように、沈黙を保っているのが一番無難だという同僚もいます。しかしある意味では自分がこの方たちの葬儀担当者でないかもしれない。しかし担当者が誰であれ、時と場合によっては遺体搬送車の車中も葬儀打合せの場にもなれ得るということです。
遺体搬送車から降りると、哀しみの現実は待っている
ご遺体が自宅に到着するなり、遺族の哀しみは現実化してきます。姉妹同士で肩を抱いて泣き始める方や、あれよこれよと命令する声が飛び交う家庭もある。
遺体搬送の運転手としては、ホッとする瞬間である。しかしその陰では、故人に対し『なぜ急に・・・』とか、何とも言葉に言い表せないような光景を目にすることもあるのです。
生きることが当たり前のはず。「朝出勤するまでは元気で居たのに・・・」この言葉は他人の私が何度聞いても切ない。そんな切なさを、葬儀という形に置き換えて葬儀社は大切な家族(故人)を司っていかなければなりません。
通夜から葬儀が終了するまでのこの人間ドラマは、遺体搬送の病院から全てが始まることを一般の方も覚えておいていただきたい。
そして、遺体搬送の車中もどんな理由であれ、不安な気持ちを運転手にぶつけること。
少しでも心のケアになるのなら利用すべきところは遠慮なくおっしゃっていただけたら幸いだと思います。